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「カテゴリを変える」とは、具体...

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2026/9/23 06:36

「カテゴリを変える」とは、具体的に何をすることか

「うちの商品、結局あそこの製品と比べられて、機能と価格で見劣りするんですよね」

商談後のミーティングで、営業担当からよく聞く一言です。プロダクトそのものは悪くない。むしろ評価は高い。それでも「あの会社の製品と比べてどうか」という問いから抜け出せず、値引きか機能追加でしか対抗できなくなっていく。

同じ現象は、業界を問わず起こります。競合と機能を比べ、競合と価格を比べ、気づけば「その土俵の中でどう勝つか」しか考えていない。比較表の項目を一つ埋め、単価を一段下げ、導入実績を一件積み増す。どれも手を動かした実感はありますが、土俵そのものを問い直す発想にはなかなかたどり着きません。

ですが、比較される土俵そのものを動かせるとしたら、話は変わってきます。本稿では、二つの公開事例をもとに、「カテゴリを変える」という打ち手が実際には何を指すのかを整理します。


1. 「カテゴリ」が、比較の結果を先に決めている

カテゴリとは、顧客が商品やサービスを比べるときに無意識に設定している「比較の枠組み」のことです。

スペックや価格を並べて比較する前に、顧客の頭の中では「これは何の仲間か」という分類がすでに終わっています。会議室で使う什器なのか、会議のやり方を変えるツールなのか。栄養補助食品なのか、朝食そのものの代わりなのか。この分類が決まった時点で、比較対象の顔ぶれと、勝負すべき軸はほぼ固定されてしまいます。

多くの企業は、この分類を所与のものとして受け入れ、その中でどう優位に立つかだけを考えます(競合は「同業他社」だけではない、という論点にも通じる話です)。機能を一つ増やす、価格を一段下げる、導入事例を一つ積み増す。どれも土俵の中での改善であり、土俵そのものを問い直す発想にはなりません。土俵の中でできることをやり尽くした企業ほど、次の一手に詰まりやすくなります。

厄介なのは、この分類の多くが、誰かが意図的に決めたものではなく、業界の成り立ちや過去の慣習の積み重ねで自然発生的にできあがっている点です。だからこそ「これは変えられない前提」だと思い込みやすく、疑う対象にすらなりません。しかし、カテゴリは顧客の頭の中にある認識にすぎず、認識である以上、動かす余地は常にあります。

社内の会議で「競合はどこか」と聞かれたとき、多くの人が同じ数社の名前を口にできるとしたら、それは業界内で共有された分類が強固に定着している証拠です。その分類の外側に目を向けない限り、比較の土俵が動くことはありません。

2. サウスウエスト航空は、なぜ同業他社を見なかったのか

サウスウエスト航空は、他の航空会社ではなく自動車での移動を比較対象に据えることで、価格競争ではない土俵を選びました。

1970年代の米国航空業界は規制下にあり、大手各社は同じ路線網・同じ機内サービス・同じ価格帯の中で横並びの競争を続けていました。共同創業者のハーブ・ケレハーは、この土俵に加わりませんでした。短距離区間において、同社が本当に奪い合っているのは他社の乗客ではなく、車で移動するという選択だと位置づけたのです。

その結果、経営資源の配分は大きく変わりました。機内食や座席指定、他社との乗り継ぎ網の充実といった「航空会社同士の比較基準」への投資は最小限にとどめ、低運賃・高頻度運航・機体の素早い折り返しという、車移動と比べたときに優位に立てる条件に集中しました。同社は長期にわたり黒字を維持した数少ない米国大手航空会社の一つとして知られるようになります。

この判断は、機材の選び方にも表れています。同社は機種をボーイング737一種類に統一し、整備・訓練・部品調達をすべて単純化しました。他の航空会社との機内サービス競争に加わらなかった分の経営資源を、折り返し時間の短縮という、車移動には真似のできない強みに集中投下できたのです。

この事例が動かしたのは、機体でも価格表でもなく「何と比べるか」という前提そのものでした。同業他社の中で最安を目指したのではなく、比較の対象を業界の外に置き直した点が核心です。

出典:Wikipedia「Herb Kelleher」 / NetSuite「How Herb Kelleher's Leadership Traits Made Him and Southwest Airlines Industry Icons」

3. セールスフォースは、「ソフトウェアではない」と言い切った

セールスフォースは、自社製品を他のCRM製品ではなく「従来型ソフトウェアを導入すること」そのものと比較させることで、新しい市場区分を切り開きました。

1999年当時の企業向けCRM市場は、高額なライセンス料とサーバー導入を伴うオンプレミス型ソフトウェアが主流でした。Siebel Systemsのような既存大手が、機能と価格で比較される土俵をすでに支配していたのです。創業者マーク・ベニオフは、自社製品をその土俵の中で戦わせませんでした。「どのCRMが優れているか」ではなく、「サーバーを自社で持つかどうか」という、より上位の選択に比較の軸を移したのです。

赤い斜線でSoftwareの文字を消した「No Software」のロゴは、競合のユーザーカンファレンス会場前で展開されるなど、象徴的なキャンペーンとして語り継がれています。当初、この主張は業界内から懐疑的に受け止められていました。

「ブラウザで動くCRMなど信用できない」という反応も少なくなかったと伝えられています。しかし比較の軸が「どのCRMが優れているか」から「サーバーを持つかどうか」に移ったことで、セールスフォースは既存CRM各社と機能を比べられる立場そのものから抜け出しました。この土俵の再設定は、のちにSaaS(Software as a Service)と呼ばれる区分が広く定着していく一つのきっかけになったと語られています。

製品としての完成度を競う前に、比較の相手そのものを変えている点は、サウスウエストの事例と共通しています。

出典:Salesforce Ben「Salesforce History: Your Guide from 1999 - 2022」 / Wikipedia「Salesforce」

4. 「土俵を変える」とは、何をすることか

「土俵を変える」とは、競合との機能・価格比較を続けるのではなく、顧客が検討の前提にしている比較の枠組みそのものを、別のものに置き換えることです。

二つの事例に共通しているのは、勝敗を分けたのが機能でも価格でもなく、「何と比較されているか」という前提だったという点です。既存の土俵で戦い続ける限り、比較の基準は競合の側が握ったままになります。一方、比較対象そのものを動かせれば、自社にとって有利な基準を自分たちの手で選び直せます。

日本PMM市場レポート2026では、ポジショニング・価値定義を最も重視すると回答したPMM関連業務従事者は24.1%にとどまりました(出典:日本PMM市場レポート2026/プロデリア・パートナーズ)。多くの組織が、比較の土俵そのものより先に、機能や価格の比較で消耗している実態がうかがえます。土俵を疑う視点は、現場ではまだ少数派だといえるでしょう。

ただし、「土俵を変える」という発想は、思いつきで比較対象を差し替えれば済むものではありません。サウスウエスト航空もセールスフォースも、新しい土俵を選んだ後に、その土俵で本当に優位に立てるだけの経営資源の配分と実行力を伴わせています。

土俵を変える宣言だけが先行し、中身が伴わなければ、顧客の頭の中の認識はすぐには動きません。どこに置き直せば自社にとって有利になるかの見極めと、その先の実行には、相応の検証と設計が必要です。その見極め方自体は、本稿の範囲を超えます。

5. まず、自社の比較の土俵を点検する四つの問い

以下の四つの問いに、今すぐ答えられるかどうかが、自社が比較の土俵を自覚できているかどうかの分かれ目になります。多くの企業は、①と②までは答えられても、③から先で言葉に詰まります。それは能力の問題ではなく、土俵を疑うという発想自体に、まだ慣れていないだけかもしれません。

問い①: 自社の製品やサービスは今、具体的に「誰」と比較されているか。競合の社名をすぐに挙げられるか。

問い②: その比較の土俵は、自社にとって有利か、不利か。

問い③: 顧客が本当に比べたいのは自社の製品なのか、それとも別の解決手段、あるいは「何もしない」という選択なのか。

問い④: もし比較対象を動かせるとしたら、どこに動かせば自社は有利になるか。

おわりに:比較の土俵は、選択できる

サウスウエスト航空もセールスフォースも、既存の競合より優れた製品を作ろうとしたわけではありません。比較される土俵そのものを動かした、という点が両者に共通しています。

多くの企業にとって、比較の土俵は「業界の慣習」として最初から与えられたもののように見えます。しかし、それは過去の誰かが下した経営判断の結果であり、動かせないものではありません。

土俵を変えることは、逃げでも奇策でもありません。今の土俵で勝てないと分かっていながら同じ土俵に居座り続けることの方が、よほどリスクの高い選択です。値引きと機能追加を繰り返すたびに、体力は削られていきます。

一方で、土俵を変えるという判断は、一部門だけで完結するものでもありません。営業が語る言葉、マーケティングが出す広告、プロダクトが積む機能。すべてが新しい土俵を前提にそろって初めて、顧客の認識は動き始めます。

自社が今立っている土俵は、そもそも誰が選んだものでしょうか。


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よくある質問(FAQ)

Q. カテゴリ再定義とは何ですか?

カテゴリ再定義とは、自社の商品やサービスが「何と比較されるか」という枠組みそのものを見直し、既存の比較対象から別の比較対象へ土俵を移すことです。機能や価格を磨く活動ではなく、比較の前提そのものを変える発想を指します。サウスウエスト航空やセールスフォースの事例のように、比較相手を業界の外に置き直すケースが代表的です。

Q. カテゴリ再定義は、ポジショニングとどう違いますか? ポジショニングは、決まった土俵の中で「自社が何者か」を伝える活動です。カテゴリ再定義は、その土俵自体を選び直す、より手前の意思決定にあたります。土俵が変われば、その後のポジショニングの中身も変わるため、両者は連続した関係にあります。

Q. カテゴリ再定義は、どんな企業に必要ですか? 機能や価格で競合と横並びに比較され続け、差別化が難しくなっている企業ほど、比較の土俵そのものを見直す価値があります。特に、成熟した市場で長く戦っている企業や、値引き合戦が常態化している企業に当てはまりやすいテーマです。

Q. カテゴリ再定義は、誰が主導すべきですか? 明確な担当部門が決まっていない企業が多いのが実情です。市場の動きと顧客の受け止め方の両方を見渡せる立場が求められるため、PMM(Product Marketing Manager/プロダクトマーケティングマネージャー)が関与するケースが増えています。営業・マーケティング・プロダクトのいずれか一部門だけで完結する意思決定ではありません。

Q. カテゴリ再定義に失敗するとどうなりますか? 比較対象の選び方を誤ったまま土俵を移すと、新しい土俵でも同じように埋もれてしまう可能性があります。土俵を変える前に、その土俵で自社が本当に有利になるかどうかを検証しておくことが欠かせません。中途半端に土俵をまたぐと、旧来の比較対象からも新しい比較対象からも中途半端に見られるリスクもあります。

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