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2026/6/5 00:21
Win-Loss分析をしているのに勝率が上がらない——PMMが「負けた理由」より先に疑うべきこと

失注した。CRMの「失注理由」に、「価格」「競合に負け」とプルダウンから選んで入力する。月末になると、失注理由を集計して円グラフにする。「価格」が一番多い。だから、価格の見直しを議題に上げる。——それを何ヶ月か続けている。なのに、勝率は、ほとんど動かない。
Win-Loss分析(勝敗分析)とは、受注した商談(Win)と失注した商談(Loss)の結果を分けた要因を特定し、今後の戦略に活かす手法のことだ。多くのBtoB企業がすでに「やっている」と言う。CRMには失注理由の項目があり、定期的に集計もしている。
それでも、勝率は変わらない。あるいは博打でおわる。
なぜか。多くのPMMは「もっと細かく理由を分類しよう」「もっとサンプル数を増やそう」とする。しかし、たいていの場合、その方向で努力を重ねても数字は動かない。
問題は、分類の粒度でもサンプル数でもない。
問題は、集めている「理由」が、そもそも本当の理由ではないことにある。
本記事では、Win-Loss分析が「やっているのに効かない」状態に陥る本当の理由と、PMMが言葉を集める前に疑うべきことについて書く。
1. 「失注理由リスト」は、なぜ勝率を変えないのか

CRMのプルダウンは「記録」であって「分析」ではない
多くの組織で「Win-Loss分析」と呼ばれているものの正体は、CRMの失注理由フィールドの集計だ。「価格」「機能不足」「タイミング」「競合」——あらかじめ用意された選択肢から一つ選び、それを月次で数える。
これは、分析ではない。記録だ。
記録と分析は違う。記録は「何が起きたか」を残す。分析は「なぜ起きたか」と「だから何を変えるか」を導く。プルダウンの集計は、前者で止まっている。「価格が敗因の40%」という数字を見ても、次の打ち手は出てこない。価格を下げればいいのか、価値の伝え方を変えればいいのか、そもそも価格は本当の敗因なのか——肝心なことは、何も分からないままだ。
集計しても打ち手が出てこないのは、構造の問題
なぜ集計から打ち手が出てこないのか。理由は単純で、プルダウンの選択肢が、最初から「打ち手につながらない粒度」で設計されているからだ。
「価格」という一語に、いくつの異なる状況が押し込まれているかを考えてみてほしい。「予算そのものが足りなかった」「価値に対して高いと感じられた」「比較した相手より高かった」「決裁者にとって投資対効果が見えなかった」——これらは全部「価格」に丸められる。だが、打つべき手はそれぞれ正反対だ。
一語に丸めた瞬間、打ち手につながる情報は失われる。集計すればするほど、「価格」という名の空っぽの箱が大きくなっていくだけだ。
2. PMMが最初に疑うべきこと——「その理由は、誰が言ったのか」

Win-Loss分析が効かないとき、PMMが最初に疑うべきは、分類でもサンプル数でもない。
「その失注理由は、いったい誰が言ったのか」
この問いが、すべての出発点になる。
売り手の「見える理由」は、構造的に歪む
ほとんどの組織で、失注理由を入力しているのは営業担当者だ。つまり、勝敗の理由は「売った(売れなかった)当事者」の自己申告で集められている。
ここに、避けられないバイアスがかかる。
Win-Loss分析を専門とする海外の調査会社の報告によれば、営業担当者が考える勝敗の理由は、6割以上の確率で実際とずれているという。さらに具体的なデータもある。ある失注について「価格が主な敗因だった」と答えた割合は、営業側では約48%にのぼる一方、買い手本人に聞くと23%程度にとどまる。売り手は、買い手の倍近い頻度で「価格のせいだ」と考えている。
これは営業担当者が不誠実だという話ではない。構造の問題だ。人は誰しも、敗因を「自分のコントロールの外」に置きたくなる。価格やプロダクトの機能は、営業個人の責任ではない。だから、無意識のうちにそこへ寄っていく。そして何より、買い手が本当の理由を、売り手に正直に話すとは限らない。「御社の提案、いまひとつ信頼しきれなくて」とは、面と向かって言いにくいものだ。
「負けた理由」は、売り手と買い手で一致しない
つまり、こういうことだ。あなたが集めている失注理由は、「買い手が選ばなかった理由」ではなく、「売り手にそう見えた理由」である。この二つは、しばしば別物だ。
買い手が本当に重視したのは、導入後の不安だったかもしれない。社内で別の部署が反対したのかもしれない。あるいは、最初の商談で「この会社は自分たちの課題を分かっていない」と感じた、その一点だったのかもしれない。——そうした本当の決め手は、プルダウンの「価格」には決して現れない。
本当の理由は、買い手の中にしかない。そこに手を伸ばさないまま、売り手の見立てだけを何百件集めても、それは精度の高い「思い込みの集計」にしかならない。
3. 「勝ち」を分析しないPMMは、半分しか見ていない

もう一つ、見落とされがちな問題がある。多くの組織のWin-Loss分析は、実態としては「Loss分析」に偏っている。負けた案件は熱心に振り返る。だが、勝った案件は「勝ったのだから良し」で素通りされる。
これは、もったいないどころではない。
勝因こそ、ポジショニングの最良の素材になる
なぜ顧客はあなたを選んだのか。この問いの答えは、机上で考えた「自社の強み」よりもはるかに信頼できる。実際に財布を開いた人が、何を決め手にしたか——それは、ポジショニングやメッセージングを設計するうえで、これ以上ない一次情報だ。
ところが、勝ったときの「本当の理由」もまた、たいてい取り違えられている。営業は「価格競争力で勝った」と思っている。だが買い手に聞くと、「担当者が唯一、自分たちの業務を理解してくれた」と答える。——この食い違いに気づかないまま、組織は「価格で勝てる」という誤った自己認識を強化していく。次の商談でも価格を武器にし、本当の強みである「理解の深さ」は、誰も言語化しないまま埋もれていく。
「選ばれた理由」は、ひとつの機能ではないことが多い
そしてもう一つ。勝因をたずねると、多くの場合、答えは「機能Aが良かったから」のような単一の点には収まらない。「課題をちゃんと分かってくれて、その解き方に納得感があって、導入後の運用イメージも持てて、しかも他社にはそこまでの提案がなかった」——こんなふうに、いくつもの要素が連なった結果として「選ばれた」と語られる。
選ばれる理由は、点ではなく、つながりだ。この連なりのどこか一つが欠けても、買い手は「決め手に欠ける」と感じる。だからこそ、勝因を「機能Aのおかげ」と一点に丸めてしまうと、本当に効いていた構造を見失う。
「勝ち」を分析しないPMMは、自社の本当の武器が何かを、永遠に知らずにいることになる。
4. その「負け」は、本当に同じ"負け"か——3つの取り違え
「負け」をひとくくりにしているのも、Win-Loss分析が効かない大きな原因だ。現場でよく見る取り違えを、3つ紹介する。自分のデータに心当たりがないか、照らし合わせてみてほしい。
取り違え①:「競合に負けた」と「現状維持に負けた」を混ぜている
これは最も多い。失注を一律に「競合に取られた」と捉えてしまう。しかし、BtoBの失注で最も多いのは、実は競合ではない。「何もしない(現状維持)」に負けるケースだ。
この二つは、まったく別の問題だ。競合に負けたなら、相手との差別化が課題になる。だが現状維持に負けたなら、課題は差別化ではない。「そもそも、今動く理由をつくれなかった」ことにある。前者への打ち手を後者に当てても、的を外す。
取り違え②:「土俵に乗れなかった」と「土俵で負けた」を混ぜている
検討の最終段階で競り負けたのか、それとも、そもそも比較検討の候補にすら入れてもらえなかったのか。これも別問題だ。
最終段階で負けるなら、決め手の弱さが問題だ。だが候補に入れてもらえないなら、問題はもっと手前——「市場から、何をする会社か正しく認識されていない」ことにある。後者を「決め手の弱さ」と取り違えると、提案の磨き込みに労力を注いでも、そもそも提案の機会が来ない、という空回りが続く。
取り違え③:「単発の敗因」と「構造的な敗因」を混ぜている
ある一件の失注は、担当者の準備不足が原因だったかもしれない。それは単発の話だ。だが、同じパターンの失注が何件も繰り返されているなら、それは個人の問題ではなく、ポジショニングやメッセージング、価格認識の設計そのものに穴があるサインだ。
一件ずつを個別のエピソードとして処理していると、この構造的なパターンが見えてこない。Win-Loss分析の価値は、一件の反省にあるのではない。複数の案件を貫く「構造」を浮かび上がらせることにある。
この3つに共通するのは、「負け」という結果だけを見て、その種類を見分けていない、という構造だ。種類が違えば、打つべき手はまったく違う。種類を取り違えたまま立てた対策は、どれだけ丁寧でも、的を外す。
5. Win-Loss分析は「営業の振り返り」ではなく「PMMの戦略インテリジェンス」
ここまで読んで、気づいたことがあるはずだ。Win-Loss分析でつまずく原因は、ほとんどが「分析の手前」にある。誰に聞くか、何を聞くか、勝ちも見るか、負けの種類を見分けるか——言葉を集める前の設計が、すべてを決めている。
そして、これはPMMの仕事の本質に直結している。
Win-Loss分析は、営業の反省会ではない。市場が、自社のポジショニング・メッセージング・価格認識について下した「採点結果」だ。買い手の口から出る「選んだ理由/選ばなかった理由」は、自社が市場でどう認識されているかを映す鏡であり、PMMが扱うべき戦略インテリジェンスそのものだ。
声を集めるだけでは、勝率は動かない
ただし——ここが最後の、そして最大の落とし穴だが——買い手の本音を正しく集めただけでは、勝率はまだ動かない。
集めた声は、そのままでは打ち手にならない。「導入後が不安だった」という一言を、メッセージングのどこを変えることに翻訳するのか。「比較対象が高すぎた」を、価格認識の設計のどこに反映するのか。バラバラの生の声を、ポジショニング・メッセージング・価格・競合戦略という「構造」に変換して初めて、Win-Loss分析は勝率を動かす力を持つ。
多くの組織は、ここで止まる。声を集めることをゴールにしてしまい、その声を構造へ翻訳する設計を持っていない。だから、立派なインタビューをしても、報告書が一冊増えるだけで終わる。
Win-Loss分析の難所は、声を集めることではなく、集めた声を「勝てる構造」に翻訳することにある。そして、この翻訳をどう体系立てて行うかこそが、PMMの専門性が最も問われる領域だ。
まず、自分の足元を点検する3つの問い
その入口として、大げさな仕組みを用意する前に、次の3つの問いに具体的に答えられるかを見てほしい。
問い①:直近で失注した案件の「本当の理由」を、買い手本人の言葉で説明できるか。 営業の見立てではなく、買い手が実際に口にした言葉で。ここが営業の自己申告で埋まっているなら、それは「思い込みの集計」かもしれない。
問い②:直近で受注した案件で、顧客が「決め手」と感じたものを、一文で言えるか。 言えないなら、自社の本当の武器を、まだ言語化できていない。
問い③:その勝因・敗因は、ポジショニングやメッセージングの「何を変えた」か。 何も変えていないなら、それは分析ではなく、ただの記録で止まっている。
Win-Loss分析がうまくいかないとき、最初に疑うべきは、分析の精度ではない。自分が、買い手の本当の理由に手を伸ばせているか。そして、集めた声を、戦略の構造に翻訳できているかだ。
良いPMMは、失注理由を数える前に、誰に何を聞くかを設計する。負けを悔やむ前に、勝ちから学ぶ。そして、集めた声を、次に選ばれるための構造へと変えていく。
Win-Loss分析の価値は、過去を振り返ることにあるのではない。次に勝つ確率を、構造として設計し直すことにある。
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よくある質問(FAQ)
Q. Win-Loss分析とは何ですか? 受注した商談(Win)と失注した商談(Loss)の結果を分けた要因を特定し、ポジショニングやメッセージング、価格戦略などの改善に活かす手法です。営業個人の反省ではなく、市場が自社をどう評価したかを読み解く戦略インテリジェンスとして扱うのがPMM視点の特徴です。
Q. なぜWin-Loss分析をしているのに勝率が上がらないのですか? 多くの場合、集めている「失注理由」が本当の理由ではないためです。CRMの理由は営業担当者の自己申告で集められることが多く、調査では6割以上が実際とずれるとされています。本当の理由は買い手の中にあり、そこに手を伸ばさない限り、集計は精度の高い思い込みにとどまります。
Q. 失注理由は誰に聞くべきですか? 売り手(営業)ではなく、買い手本人に聞くのが原則です。売り手は敗因を価格や機能など自分の責任外の要因に帰属させやすく、買い手も売り手には本音を話しにくいためです。可能であれば、利害関係のない第三者がヒアリングするとより正直な回答が得られます。
Q. 負けた案件だけ分析すれば十分ですか? 不十分です。勝った案件こそ、顧客が実際に何を決め手にしたかを示す一次情報であり、ポジショニング設計の最良の素材になります。勝因も取り違えられやすいため、Win側の分析を欠くと自社の本当の強みを見失います。
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