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  • サービス・事業

2026/8/4 09:29

「決めるのは客先」の部品メーカーに、PMMは本当に効くのか——IntelとShimanoが変えたもの

客先から要求仕様が降りてくる。台数計画が示される。それに合わせて生産能力を確保し、原価を積み上げ、事業計画をつくる。今期の売上は、実質的に客先の量産計画で決まっている。——この構造の中で、「PMMを置きましょう」と言われても、置く場所が思い浮かばない。

BtoBの部品メーカーの方とPMMの話をすると、かなりの確率でこう返ってきます。

「うちは、何を採用するかも、どれだけ発注するかも、最終的には客先が決める。事業企画そのものが客先の要望ありきで組み上がっていく。そんな中で、PMMがどう作用しうるのかイメージがつかない」

まっとうな疑問です。そして、この疑問に「いや、御社にも顧客はいますから」と返すだけでは、何も伝わりません。

本記事では、まずPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)という職種が何をする仕事なのかを整理したうえで、客先が最終決定権を持つ部品メーカーという構造の中で、PMMが具体的に何を変えられるのかを、IntelとShimanoという2つの実例をもとに解説します。


1. そもそもPMMとは何をする仕事なのか

PMMは「作るもの」と「売れる状態」の間を埋める役割

PMM(Product Marketing Manager/プロダクトマーケティングマネージャー)とは、プロダクトが持つ価値を、市場に伝わる形へ翻訳し、選ばれる状態をつくる役割です。

多くの企業には、すでにこの2つがあります。

  • プロダクト側:何を作るか、どんな性能にするかを決める人たち(開発・技術・設計)

  • セールス側:目の前の相手に、実際に売る人たち(営業)

この2つの間には、実は大きな溝があります。技術者は「この製品のどこが優れているか」を知っています。営業は「目の前の担当者が何に困っているか」を知っています。しかし、「この優れた点は、どの顧客の、どの困りごとに、どういう言葉で刺さるのか」を設計する人が、多くの組織では不在です。

その空白を埋めるのがPMMです。

PMMが実際に扱う4つの領域

PMMの仕事は会社によって幅がありますが、中核はおおむね次の4つに整理できます。

① 市場・顧客理解(インサイト) 誰が、なぜ、何を基準に選んでいるのかを一次情報として掴む。営業の肌感覚や技術者の想定ではなく、実際の買い手の意思決定構造を明らかにする領域です。

② ポジショニング 数ある選択肢の中で、自社が「何の会社/何の製品として」認識されるかを設計する。「性能が良い」ではなく、「どの土俵で、誰と比べられ、何で勝つか」を決める仕事です。

③ メッセージング 決めたポジショニングを、相手に伝わる言葉に翻訳する。技術用語やスペックの羅列を、買い手が自分の課題として理解できる言葉に変える領域です。

④ セールスイネーブルメント 現場(営業・技術営業・販売網)が、そのメッセージを実際に使える状態にする。資料、トークの型、想定問答などを整備し、属人化を減らします。

PMMは「決定権」ではなく「意思決定の材料」に働きかける

ここが、本記事の核心です。

PMMは、顧客の購買決定を無理やり動かす魔法ではありません。PMMが働きかけるのは、顧客が決める前に、何を材料として持っているかです。

  • 顧客は、自社製品の価値を正しく理解しているか

  • その価値は、値段以外の軸で比較できる形になっているか

  • 顧客の担当者は、それを社内の稟議に書ける言葉として持っているか

決定権は、常に顧客側にあります。BtoCでもBtoBでもそれは同じです。変えられるのは、決定に至るまでの情報環境の方です。

そして、この「情報環境を設計する」という仕事は、客先が仕様と数量を決める部品メーカーであっても、まったく同じように成立します。


2. 部品メーカーで「PMMの出番がない」と感じる、3つの理由

事例に入る前に、なぜこの疑問が生まれるのかを言語化しておきます。心当たりがあるかどうか、照らし合わせてみてください。

理由①:顧客が「1社の担当者」に見えている

部品メーカーの営業は、特定の客先の、特定の部署の、特定の担当者と、長期にわたって向き合います。すると「マーケティング=不特定多数への発信」というイメージと噛み合わず、「うちには関係ない」と感じられます。

しかし、実際の意思決定は担当者1人で完結していません。設計、購買、品質保証、事業企画——客先の中で複数の部署が、それぞれ別の基準で判断している。その全体像を掴み、それぞれに刺さる材料を用意することは、まさにPMMの仕事です。

理由②:評価軸が「価格と品質」に固定されている

「結局、最後はコストで決まる」という感覚。これは多くの部品メーカーで共有されています。

しかし、価格で決まるのは、価格以外の軸が比較可能な形になっていないときです。壊れにくさ、システム全体への波及効果、開発リードタイムの短縮——これらが数字や言葉になっていなければ、比較表に残るのは価格だけになります。何が比較の土俵に載るかを設計するのは、PMMの中核業務です。

理由③:事業企画が「客先の量産計画の従属変数」になっている

客先の台数計画が来て、それに供給を合わせる。この構造だと、自社の意思で市場を選んでいる感覚が持てません。

ただ、ここで問うべきは「今の案件をどうするか」ではなく、「次の案件が来るとき、どういう会社として認識されているか」です。認識のされ方は、自社の意思で変えられます。それを実際に変えた会社が、次に見る2社です。


3. 事例①:Intel——「見えない部品」を「指名される条件」に変えた

出典:The Brand Hopper「A Case Study on Intel's Intel Inside Campaign」ScienceDirect「Service inside: The impact of ingredient service branding」

置き換えられる部品メーカーだった、1990年代のIntel

1990年代初頭のIntelは、パソコンメーカー(客先)にプロセッサを供給する、典型的なBtoB部品メーカーでした。

構造は、いま多くの部品メーカーが置かれている状況とほぼ同じです。最終製品であるパソコンの仕様を決めるのはパソコンメーカー。Intelは供給する側。そして当時、互換プロセッサを作る競合が存在し、いつ他社製品に置き換えられてもおかしくない立場にありました。

Intelがやったこと:客先の「その先」に価値を届けた

ここでIntelが取った行動が、部品メーカーとしては異例でした。

部品メーカーであるIntel自身が、パソコンを買う一般ユーザーに向けて、直接プロセッサの価値を発信し始めたのです。それが「Intel Inside」というキャンペーンです。

当時、パソコンを買う人はプロセッサが何をする部品かをほとんど理解していませんでした。「速いパソコンが欲しい」とは思っても、その速さがどこから来るのかは知らない。Intelは、その理解の空白を埋めにいきました。「良いパソコンには、Intelが入っている」——この認識を、部品メーカー自身がエンドユーザーの頭の中に作っていったのです。

何が変わったか:置き換えられない部品になった

結果として起きたのは、力関係の変化でした。

パソコンを買う人が「Intel入り」を自分から探すようになると、パソコンメーカー側は「Intelを使わない」という選択が説明しづらくなります。Intelは、裏方の供給元から、パソコン選びにおける共同の主役のような立場へと変わりました。

さらに重要なのは、パソコンメーカー側にもメリットが生まれたことです。Intel製プロセッサを採用し、それを製品に明示すること自体が、自社製品の信頼性の証明になった。部品メーカーと客先が、同じ方向を向けるようになったわけです。

この事例から読み取るべきこと

ここで見落としてはいけないのは、Intelは「パソコンの仕様を決める権利」を一度も手にしていないという点です。何を採用するかを決めるのは、最後までパソコンメーカーでした。

変わったのは、その決定に至るまでの情報環境です。Intelは、決定権を奪う代わりに、「Intelを選ばない理由の方が、説明しづらい」という状況を意思決定の手前に用意した。

市場の理解構造を把握し(インサイト)、自社を「性能の保証」として認識させ(ポジショニング)、それをエンドユーザーが理解できる言葉にした(メッセージング)。前章で挙げたPMMの4領域が、そのまま実行された事例です。


4. 事例②:Shimano——「現場の声」を製品と提案に還流させる

出典:Porter Prize「Shimano Inc. Bicycle Components Division」

自動車Tier1に近い構造を持つ、自転車部品メーカー

もう1社、より構造が近い例として自転車部品メーカーのShimanoを見ます。

Shimanoは完成車メーカー(客先)に部品を供給する立場です。最終的にどの車体に、どの構成で組み込まれるかは、完成車メーカーの設計判断に委ねられています。自動車のTier1部品メーカーが置かれている構造と、ほぼ同じです。

Shimanoがやっていること:客先の先にある「使用現場」に自ら入る

Shimanoは、部品を納めて終わりにしていません。部品メーカー自身が、次のような活動を継続しています。

  • 製品の価値を伝えるマーケティング活動を、自社として実施する

  • 販売店向けに、調整方法や修理技術のトレーニングを提供する

  • 補修部品の安定供給まで担い、使用現場との関係を維持する

  • イベント開催やレースチームへの協賛を通じて、実際の使い手と直接つながる

さらにShimanoは、日本のスタッフを欧米の自転車店に一定期間派遣し、現場の仕事と各地域の使い手の実態を、部品メーカー自身の目で見るということまで行ってきました。

何が変わったか:声が製品に還ってくる循環ができた

この「現場との接点」は、広報活動のおまけではありません。

現場から得られたフィードバックは、実際に製品開発のアイデアを生む材料として使われ、同時に製品の優位性を幅広い使い手に伝える機会にもなっています。

つまりShimanoは、部品メーカーでありながら、次の循環を自社の中に持っているということです。

  1. 使い手の声を、自ら拾い上げる(インサイト)

  2. それを製品の差別化点として言語化する(ポジショニング/メッセージング)

  3. 販売網や完成車メーカーに向けて、価値を伝えられる状態にする(イネーブルメント)

これは、PMMの基本動作そのものです。

この事例から読み取るべきこと

Shimanoもまた、完成車メーカーの設計権限を奪ってはいません。しかし、業界内での交渉力と、指名される確率という点で、他の汎用部品メーカーとはまったく違う位置に立っています。

そして注目すべきは、その位置を作ったのが特別な技術力だけではないことです。技術力を持つ部品メーカーは他にもあります。違いは、その技術力を「誰に、どう伝わる形にするか」を、部品メーカー自身が設計し続けたかどうかにあります。


5. 2社に共通する構造——PMMは「決定の手前」を設計する

Intelは、客先のさらに先にいるエンドユーザーに価値を可視化しました。Shimanoは、使用現場との継続的な接点から価値の言語化と製品開発をつなげました。

アプローチは違いますが、共通しているのは1点です。

どちらも、客先の意思決定そのものを奪いにいっていない。奪う代わりに、意思決定の手前にある情報と関係性を、自分たちの意思で設計し直した。

これが、「決めるのは客先」という構造の中でPMMが作用する仕組みです。

部品メーカーにおいて、PMMが具体的に担える4つの役割

前章までを踏まえ、部品メーカーがPMM機能を持つことで担えるようになる役割を整理します。

① 技術的な強みを「稟議で使える言葉」に翻訳する 技術者が把握している差別化ポイントは、多くの場合、技術者の言語のままです。それを、客先の購買・企画担当者が社内の稟議書に書ける「価値の言葉」に変換する。これができていないと、比較表に残るのは価格だけになります。

② 事業部をまたいだ提案をパッケージ化する 客先は、車両全体やシステム単位で意思決定します。一方、自社は事業部単位で製品を持っている。この単位のズレが、提案の力を弱めます。個別部品ではなく、客先の意思決定単位に合わせて提案を組み立てる——事業部間の壁が課題になっている組織ほど、この横串を通す役割の価値は大きくなります。

③ 顧客の声を製品に還流させる仕組みをつくる 客先の担当者、さらにその先の使い手(実際に車を運用する人、フリート管理者など)からのフィードバックを、単発の要望対応で終わらせず、製品開発と提案内容に構造的に反映させる流れを設計する。Shimanoが持っているのは、まさにこの循環です。

④ 技術者主導の提案活動を、型で支える 技術部門の担当者が実質的に企画・提案まで担っているケースは、部品メーカーでは珍しくありません。この場合、提案の質は個人の力量に大きく依存します。PMMが市場理解とストーリーの型を用意することで、属人化しやすい提案の質を、組織として安定させられます。


6. まず、自社の足元を点検する3つの問い

大がかりな組織変更を検討する前に、次の3つに具体的に答えられるかを確認してみてください。

問い①:直近の失注案件で、客先が「なぜ他社を選んだのか」を、客先の言葉で説明できるか。 「価格で負けた」という自社側の見立てではなく、客先が実際に口にした理由で。ここが埋まっていないなら、比較の土俵そのものが見えていない可能性があります。

問い②:自社製品の強みを、技術用語を使わずに一文で言えるか。 言えないなら、その強みは客先の稟議書には載りません。載らないものは、意思決定の材料になりません。

問い③:客先の意思決定に、いくつの部署が関わっているかを把握しているか。 設計、購買、品質保証、事業企画——それぞれの評価軸を答えられないなら、届けるべき材料も設計できていないことになります。


おわりに:「決める権利がない」ことと「打つ手がない」ことは違う

客先が最終的な仕様と発注量を決める構造は、変わりません。それは前提として受け入れるべき現実です。

しかし、その決定に至るまでの情報環境——価値がどう見えているか、提案がどうパッケージ化されているか、現場の声がどう製品に還ってきているか——は、部品メーカー自身の意思で変えられる領域です。PMMは、まさにこの領域に働きかける機能です。

部品単体でのコスト差別化が難しくなっている今、問うべきは「決める権利がない領域で、何をあきらめるか」ではありません。「決める権利の手前にある情報の設計を、自分たちの手でどう変えるか」です。

IntelもShimanoも、その問いに部品メーカーとして答えを出した会社でした。


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よくある質問(FAQ)

Q. PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)とは何をする職種ですか? プロダクトの価値を市場に伝わる形へ翻訳し、選ばれる状態をつくる役割です。中核業務は、市場・顧客理解(インサイト)、ポジショニング、メッセージング、セールスイネーブルメントの4領域。開発と営業の間にある「この強みは誰のどの課題に、どう伝えれば刺さるのか」という空白を埋める職種です。

Q. 客先(OEM)が仕様も発注量も決める部品メーカーに、PMMは必要ですか? 必要です。PMMは顧客の決定権を奪う機能ではなく、顧客が決定する際に使う「材料」に働きかける機能だからです。自社の価値がどう理解されているか、価格以外の比較軸が用意されているか、客先の担当者が稟議に書ける言葉を持っているか——これらは供給側の意思で変えられます。

Q. BtoB部品メーカーがPMMを活用した具体例はありますか? 代表例が1990年代のIntelです。パソコンメーカーに供給する立場でありながら、部品メーカー自身がエンドユーザーへ直接価値を発信し(Intel Insideキャンペーン)、置き換えられにくい立場を築きました。自転車部品のShimanoも、販売店トレーニングやイベントを通じて使用現場と直接つながり、その声を製品開発と価値伝達に還流させています。

Q. 部品メーカーでPMMを始めるなら、最初に何から着手すべきですか? まず、客先の意思決定にどの部署が関わり、それぞれ何を評価軸にしているかを把握することです。多くの部品メーカーは特定の窓口担当者としか接点を持たず、設計・購買・品質保証・事業企画がそれぞれ別の基準で判断している実態を掴めていません。この構造理解がないまま資料や訴求を作り込んでも、意思決定の材料にはなりません。

Q. 「結局は価格で決まる」という業界でも、PMMは意味がありますか? 価格で決まるのは、価格以外の軸が比較可能な形になっていないときです。耐久性、システム全体への波及効果、開発リードタイムの短縮といった価値が、数字や言葉として提示されていなければ、比較表に残るのは価格だけになります。何を比較の土俵に載せるかを設計することが、PMMの中核業務のひとつです。

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