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PMMとは何か——役割・スキル...
サービス・事業
2026/8/24 00:22
PMMとは何か——役割・スキル・組織における位置づけを、日本の実態データから体系的に整理する

会議室で、誰かが言う。「うちにもPMMを置こう」。全員がうなずく。次の質問で、場が止まる。「それで、その人には具体的に何をしてもらうんですか」。マーケティングでもない。プロダクトマネージャーでもない。営業でもない。——では何なのか、その一文が、意外と出てこない。
「うちにもPMMが必要だと思うんです。ただ、何をしてもらえばいいのか、正直よくわかっていません」
これは、取材や商談の場で繰り返し聞いてきた言葉です。まっとうな疑問です。そしてこの疑問が生まれる理由は、あなたの理解不足ではありません。PMM(Product Marketing Manager)という職種そのものが、日本において「機能はあるが定義がない」という宙づりの状態にあるからです。
同じ疑問は、求人票を書く側にも表れます。「PMM募集」という言葉を掲げながら、職務内容の欄には「マーケティング全般」「事業企画のサポート」「プロダクトとの連携」といった、境界の曖昧な言葉が並ぶケースが少なくありません。応募する側も、面接で「結局、何をする人ですか」と聞き返すことになります。採用する側も、される側も、同じ霧の中にいます。
この霧の正体は、個々の企業の準備不足ではありません。PMMという職能そのものが、日本において急速に立ち上がっている最中にあり、共通言語がまだ十分に育っていないのです。だからこそ、感覚や伝聞ではなく、実際のデータに基づいて輪郭を描く必要があります。
本記事では、166社を対象にした国内調査「日本PMM市場レポート2026」のデータをもとに、PMMの定義・役割・必要なスキル・組織における位置づけを体系的に整理します。読み終える頃には、自社にとってPMMがどういう存在であるべきかを、自分の言葉で説明できるようになっているはずです。
この記事の要点
PMMは「プロダクトを作る」役割ではなく、「プロダクトの価値を市場に届ける」役割である
日本企業の92%に何らかの形でPMM機能が存在する一方、専任の肩書を持つのはわずか28%にとどまる
役割分担・型・キャリアパスのいずれも5点満点で2.2〜2.4と低く、機能は生まれても「定義」が追いついていない
今後3年でPMMの重要性が上がると答えた企業は83%。市場の需要はすでに顕在化している
配置や採用の前に、まず「自社にとってPMMが解くべき問いは何か」を言語化することが出発点になる
1. そもそもPMMとは何か——一文で言えば

PMM(Product Marketing Manager/プロダクトマーケティングマネージャー)とは、プロダクトが持つ価値を、市場に伝わる形へ翻訳し、選ばれる状態をつくる役割です。
この定義には、意図的に「作る」という言葉が入っていません。プロダクトを作るのはPdM(Product Manager)とエンジニアリングチームです。PMMの持ち場は、その手前でもなければ後工程でもなく、「作られたものが、なぜ・誰に・どう選ばれるのか」という、市場との接続面にあります。
実務では、この接続面はおおむね4つの領域に分解して語られます。
インサイト——顧客が何に困り、何を諦めているかを理解する
ポジショニング——自社が市場のどこに立ち、何と比較されるべきかを定義する
メッセージング——その立ち位置を、相手ごとに伝わる言葉に変換する
セールスイネーブルメント——その言葉を、営業やCSが実際に使える武器に変える
この4つは独立した業務ではなく、上流から下流へ流れる一本の線です。顧客理解が曖昧なままポジショニングを決めても、そのポジショニングは空中戦になります。ポジショニングが定まらないままメッセージングを作っても、その言葉は誰にも刺さりません。PMMという職種の難しさは、この一本の線を、自分の手だけで完結させられない点にあります。プロダクト、営業、マーケティング、カスタマーサクセス——複数の部門をまたいで、この線を通す仕事だからです。
ここが、PMMという職種の核心です。PMMは「良いプロダクトを作る」仕事の担い手ではありません。良いプロダクトが「良いと伝わり、選ばれる」ところまでを設計する仕事です。この一文を押さえておくと、以降の内容がすべてつながります。
もう少し噛み砕くと、PMMは「プロダクトの通訳者」に近い存在です。開発チームが作った機能は、そのままでは開発チームの言葉で語られています。顧客はその言葉を理解できません。逆に、顧客が抱える悩みも、そのままでは顧客の言葉で語られています。開発チームはその悩みの背景を理解できません。PMMはこの両側に立ち、双方の言葉を行き来しながら、「なぜこのプロダクトが、この顧客に必要なのか」を、両者が納得できる形に変換します。この通訳の質が低いと、優れたプロダクトも「機能は多いが、何に使うのか分からないもの」として市場に埋もれていきます。
2. なぜ会社によってPMMの定義が違うのか、3つの理由

「PMMを置いている」と言っても、A社とB社では中身がまったく違う——これは珍しいことではありません。心当たりがあるかどうか、次の3つに照らし合わせてみてください。
理由①:機能が先に生まれ、名前が後からついてくる
日本PMM市場レポート2026によれば、何らかの形でPMM機能が存在する企業は92%にのぼります(出典:日本PMM市場レポート2026/プロデリア・パートナーズ、n=166)。しかし、その内訳を見ると景色が変わります。専任の肩書を持つのはわずか28%にとどまり、残りは「機能はあるが肩書がない」「他職種が一部兼務している」という状態です。
つまり多くの組織で、PMM的な業務は「誰かが名乗る前」からすでに発生しています。事業企画やマーケティング担当者が、必要に迫られて自然発生的にこの役割を担い始める。名前が先にあって人が配置されるのではなく、業務が先にあって、後から「これはPMMという名前がついている仕事らしい」と気づく——この順序の違いが、定義のばらつきの根本原因です。
理由②:「作る」と「届ける」の境界が言葉になっていない
プロダクトを「つくる役割」と「届ける役割」の社内での分担がどの程度明確かを尋ねた設問では、平均スコアは5点満点中2.4にとどまり、56%が「不明確」と回答しています。
この数字が意味するのは、PMMの定義が曖昧なのではなく、PMMの隣にある境界線そのものが引かれていないということです。PdMとの境界、マーケティングとの境界、営業との境界——これらが曖昧なままだと、PMMという言葉に何を入れるかは、結局その場にいる人の解釈に委ねられます。
理由③:型と教育が整っていないため、人によって解釈が割れる
PMM・GTMを進める上での「型・メソッド・教育」が社内に十分あるかを尋ねた設問では、平均2.3、57%が「不足している」と回答しました。これは今回の調査全体を通じて、役割分担の明確さ(2.4)、キャリアパスの明確さ(2.2)と並んで、際立って低いスコアです。
型がなければ、PMMという役割は「その人の経験」でしか語れません。前職でPMMをしていた人が定義する“PMM”と、マーケティングから異動してきた人が定義する“PMM”は、当然ながら違う輪郭を持ちます。会社によって定義が割れるのは、個々の担当者の理解力の問題ではなく、組織として依拠すべき型が存在しないという、構造の問題です。
3. データで見る、日本のPMMの現在地

ここまでの3つの理由を裏付ける形で、日本PMM市場レポート2026は、PMMという職能が置かれている状況をより広い解像度で示しています。
需要はすでに顕在化している——今後12〜24ヶ月でPMM体制を新設または増員する意向を持つ企業は61%(新規設置32.5%、増員28.9%)。縮小の意向はわずか2.4%です。今後3年でPMMの重要性が上がると見込む企業は83%(平均4.3/5)にのぼり、PMMが一過性のトレンドではなく、構造的に拡大していく職能であることを示しています。
重視される業務には偏りがある——PMMが担うべき業務として最も多く挙げられたのは「GTM戦略の設計」(56.6%)、次いで「メッセージング」(29.5%)、「プロダクトのローンチ管理」(27.1%)でした。一方で「効果測定・改善」を挙げた企業はわずか7.2%です。この偏りは、多くの組織がPMMに「上流の設計」を期待しながら、「その設計が機能したかどうかの検証」までは手が回っていないことを示唆しています。
組織課題の1位は人、2位は責任の所在——PMM/GTMにおける組織課題として最も多く挙げられたのは「人材・スキルの不足」(59.6%)、次いで「責任の所在が不明確」(44.6%)、「顧客インサイトの社内分断」(42.2%)でした。人が足りないという声の裏に、実は「誰が何に責任を持つのかが決まっていない」という、より根本的な課題が隠れています。
PMM人材は越境から生まれている——PMM的業務を担う人材の出身領域は、事業企画・経営企画が40.4%、マーケティングが36.7%と続きます(複数回答)。そして回答者の78%が、普段の業務で3領域以上をまたいで働いていると回答しました。PMMという役割は、単一の専門性の延長線上ではなく、複数領域の経験を持つ人材が自然に流れ着く場所になっているようです。
AIは脅威ではなく追い風として捉えられている——AI活用の実態を尋ねた設問では、「まだ活用していない」と回答した企業はわずか2.4%で、メッセージング案の生成(59.0%)、コンテンツ・資料作成(54.8%)など、すでに実務に深く浸透しています。それにもかかわらず、AIの普及によって越境人材の職能価値がどう変わるかを尋ねた設問では、80%が「上がる」(平均4.2/5)と回答しました。作業そのものはAIに移っても、どの市場で戦い、何を価値と定義するかという判断は、AIに委ねられていないと現場は見ています。
これらの数字がひとつにつながる場所に、この記事の結論があります。日本のPMM市場は、需要と機能の両方がすでに存在しています。足りていないのは、それらを支える「定義」と「型」です。
この状況を、もう少し海外と比較して見てみます。B2B・SaaS領域を中心にPMMという職種が確立してから、米国ではすでに10年以上が経過しています。求人票の職務内容も、キャリアパスも、業界内である程度の共通言語が育っています。日本の状況はこれとは異なり、機能が急速に立ち上がっている真っ最中です。回答者の85%がSaaS・IT業界に属し、77%がB2B中心の事業を営んでいるという今回の調査母集団の性質を踏まえると、この「立ち上がりの途中」という状態は、特定の業界に偏った現象ではなく、日本のB2B SaaS市場全体に共通する構造だと考えられます。
言い換えると、いま日本でPMMに取り組む企業は、確立された正解をなぞる段階にはいません。自社にとっての定義を、自分たちで作りにいく段階にいます。この事実は不利には働きません。むしろ、型がまだ流動的だからこそ、早く着手した企業が自社に合った形を先に定義できるという意味では、機会でもあります。
業界別に見ても、この機会の大きさは際立っています。今回の調査対象の77.7%がSaaS・サブスクリプション型のビジネスを展開しており、こうしたビジネスモデルでは、一度の受注で終わらず、契約後も顧客に価値を実感し続けてもらう必要があります。買ってもらうまでの翻訳と、使い続けてもらうための翻訳——この両方を担える機能を持つかどうかが、中長期の解約率や顧客単価に直結します。PMMという機能への投資を「マーケティングの一部を強化する話」ではなく、「事業の継続的な成長エンジンをどう設計するかという話」として捉える企業が増えているのは、この構造を踏まえてのことです。
4. PMMのキャリアは、どこから始まるのか

PMMを新しく採用したい、あるいは社内でPMMを育てたいと考えたとき、次に浮かぶ疑問は「どんな人がPMMに向いているのか」です。
日本PMM市場レポート2026は、この問いにも手がかりを与えてくれます。PMM的業務を担う人材の前職・出身領域を複数回答で尋ねたところ、最も多かったのは事業企画・経営企画(40.4%)、次いでマーケティング(36.7%)、PdM(21.1%)、営業(15.7%)、カスタマーサクセス(13.3%)と続きました。
この分布から読み取れるのは、PMMには「王道の入り口」が一つに定まっていないという事実です。事業企画出身者は、事業全体を俯瞰する視点と、複数部門を巻き込む力を持ち込みます。マーケティング出身者は、顧客への伝え方と、市場データを読む力を持ち込みます。営業出身者は、現場で交わされる生の言葉と、失注の肌感覚を持ち込みます。カスタマーサクセス出身者は、「導入した後、顧客が本当に困ること」を知っています。
どの出身であっても、共通して求められるのは、自分の専門領域の外側にある文脈を、居心地悪がらずに扱えるかどうかです。マーケティング出身者であれば、プロダクトの技術的な制約を理解しようとする姿勢が要ります。営業出身者であれば、施策の効果を定量的に語る姿勢が要ります。専門性の深さよりも、専門性の外に踏み出す意欲のほうが、この職種への適性を分けています。
そしてこの「越境」は、キャリアを積んでからも続きます。PMMのキャリアパスが自社や日本において明確だと答えた企業は、わずか7%(4〜5の回答)にとどまりました。63%が「不明確」と回答しています。これは、PMMという役割に入った後も、次にどう成長すればいいのかという道筋自体が、多くの組織でまだ描かれていないことを意味します。裏を返せば、いま自社でPMMのキャリアパスを丁寧に設計すること自体が、採用競争力に直結する打ち手になります。
5. PMMに求められるスキル——4領域を、実務でどう発揮するか
先に触れた4つの領域(インサイト・ポジショニング・メッセージング・セールスイネーブルメント)は、それぞれ求められる力の性質が異なります。
インサイトの領域で求められるのは、データを集める力ではなく、データの奥にある「なぜ」を読み解く力です。顧客インタビューやNPS、営業の失注理由——素材はどの会社にもあります。しかし「市場・顧客リサーチ」を重視業務として挙げた企業は17.5%にとどまり、素材はあっても、そこから構造を取り出す工程が組織的に軽視されがちであることが読み取れます。
ポジショニングの領域で求められるのは、比較の土俵そのものを設計する力です。多くの担当者は「自社の強みは何か」を語ろうとしますが、その前に「何と比較されているか」が定まっていなければ、強みの語り方自体が空回りします。この領域を重視業務として挙げた企業は24.1%で、GTM戦略の設計(56.6%)と比べると優先順位が低く見えますが、実際にはこの土台が崩れていると、その先のメッセージングもセールスイネーブルメントも機能しません。
メッセージングの領域で求められるのは、正確さと伝わりやすさのバランスを取る力です。技術的に正確な説明は、しばしば誰にも伝わりません。逆に伝わりやすさを優先しすぎると、誇張になります。この領域は重視業務の2位(29.5%)に挙がっており、PMMの実務の中でも特に「担当者の腕」が問われる領域です。
セールスイネーブルメントの領域で求められるのは、資料を作る力ではなく、営業が資料なしでも自分の言葉で語れる状態を作る力です。この領域を重視業務として挙げた企業は20.5%あり、「資料を配って終わり」という状態からどう抜け出すかは、多くの組織に共通する悩みです。
これらの力は、既存のどの職種のスキルセットとも完全には一致しません。マーケティングの言語化力、事業企画の構造化力、営業の現場感覚、プロダクトの技術理解——PMMに求められるのは、これらのどれか一つを極めることではなく、複数の力を、状況に応じて配分し直せる柔軟さです。
この柔軟さは、偶然に育つものではありません。日本PMM市場レポート2026では、PMM的業務を担う人材の78%が、普段の業務で3つ以上の領域をまたいでいると回答しています。単一の部署に閉じて仕事をしていては、この柔軟さは身につきません。複数の部門の会議に出て、複数の言葉づかいに触れて、初めて「翻訳」ができるようになります。
だからこそPMMは、単一の専門性の先にではなく、複数の現場を経験した人材が流れ着く役割になっています。新卒でいきなりPMMになるケースが少なく、事業企画・マーケティング・営業・カスタマーサクセスなど、他職種からの転身が主な入り口になっているのは、偶然ではなく、この職能の性質そのものに理由があります。PMMに必要なスキルをより詳細に分解した内容は、別記事「PMMに必要なスキルは7つ」で扱っています。
6. 事例に見る、「翻訳」という仕事の価値

PMMの仕事の本質——プロダクトの価値を、市場に伝わる形へ翻訳する——を最もよく示す事例が、海外のテック企業の歴史に残っています。
出典:Tomasz Tunguz「Salesforce's Marketing Secret - The Fourth Marketing P」 / Zapier「7 Proven Product Marketing Tactics from an Early Salesforce and Dropbox VP」
1999年、Salesforceは当時のCRM市場のリーダーだったSiebel Systemsに、プロダクトの機能で挑みませんでした。掲げたのは「No Software」という一言だけの主張です。ソフトウェアを自社サーバーに導入し、保守する——当時の業界にとって当たり前だったその前提そのものを、比較の対象に置き換えました。競合イベントの会場前で、ソフトウェアの終焉を演出する抗議デモまで演じたと伝えられています。機能で戦うのではなく、「何と比較されるか」を作り替えたのです。結果、Salesforceは10年足らずでSiebelを追い抜きました。
この事例から読み取るべきことは、「派手な施策をすればいい」ということではありません。Salesforceのプロダクト自体は、当時すでに一定の完成度を持っていました。勝敗を分けたのは、そのプロダクトを「クラウド上のソフトウェアである」という技術的に正確な説明のまま出すか、「もうソフトウェアはいらない」という、顧客の負担の言葉に翻訳して出すか、という一点でした。
もうひとつ、近い時期に生まれた事例があります。HubSpotは、自社のマーケティング手法を「インバウンドマーケティング」という言葉で名付けました。これは単なるキャッチコピーではなく、比較の土俵そのものを新しく作る動きでした。「インバウンドマーケティング」という言葉で検索する人は、他社ではなくHubSpotにたどり着きます。カテゴリの中で戦うのではなく、カテゴリの名付け親になることで、比較そのものを有利な土俵に持ち込んだのです。
2つの事例に共通しているのは、プロダクトの完成度と、市場での勝敗が、必ずしも一致しないという事実です。その間を埋めるのが、翻訳という仕事です。そしてこの翻訳は、偶然の閃きではなく、顧客が何と比較して意思決定しているかを正確に理解した上で設計されています。これが、PMMという職能が組織に存在する理由です。
日本国内でも、同じ構造を持つ事例は業種を問わず見られます。技術的な優位性では説明しきれない差が、市場での評価を分けている——この現象に心当たりがあるなら、それはプロダクトの問題ではなく、翻訳の不在という問題かもしれません。逆に言えば、技術力で他社に劣っていないにもかかわらず選ばれていないとしたら、そこには伸びしろが眠っています。プロダクトを作り直す前に、まず翻訳を疑ってみる価値はあります。
見落とされがちなのは、この翻訳という仕事が、一度作ったら終わりではないという点です。市場の前提は変わり続けます。Salesforceが「No Software」を掲げた1999年当時は画期的だった主張も、クラウドが当たり前になった今では、もはや差別化の材料になりません。翻訳は一度で完成する仕事ではなく、市場の変化に合わせて描き直し続ける仕事です。この継続性こそが、単発の広告キャンペーンとPMMという機能の違いです。
7. PMMは組織のどこに置かれるべきか
PMMを採用したいという相談の次によく受けるのが、「どこに配置すればいいか」という質問です。CMO配下か、CPO配下か、事業責任者直下か——多くの企業がこの問いに正解を探しますが、業界標準と呼べる相場観は、まだ存在しません。
理由は単純です。PMMという役割そのものが日本で普及し始めてから日が浅く、「この会社ではこう配置する」という前例が積み上がっていないからです。ある会社ではマーケティング組織の中に、別の会社では事業責任者の直下に、また別の会社ではプロダクト組織の中に置かれています。どれも間違いではなく、どれも「たまたまそうなった」という経緯で説明されることが少なくありません。
この曖昧さが生む実害は、配置そのものよりも、配置した後に表面化します。先ほど触れた組織課題の2位、「責任の所在が不明確」(44.6%)は、まさにこの延長線上にあります。「PMMをどこかに置いた」という事実だけでは何も解決せず、置いた後に「結局、この人は何に責任を持つのか」という問いに答えられなければ、PMMは各部門から都合よく雑用を頼まれる便利屋になっていきます。
配置を検討する際にまず持つべき問いは、「どこに置くか」ではありません。「この配置によって、自社は何を解決したいのか」です。この問いに答えられないまま配置だけを決めると、その配置は形骸化します。組織図上の箱を一つ動かすことと、そこに意味のある役割を宿すことは、まったく別の作業です。
配置の考え方をさらに詳しく扱った内容は、別記事「PMMは、どこに置くべきか」で解説しています。
8. まず、自社の足元を点検する3つの問い

ここまで、PMMの定義・スキル・組織における位置づけを見てきました。最後に、自社の状況を点検するための3つの問いを置きます。答えは、この記事の中には書きません。
問い①:自社でPMM的な業務を担っている人は誰か。その人は、その役割を「名乗って」いるか。 名乗っていないとすれば、それは機能が先に生まれ、名前が追いついていない状態かもしれません。その人自身も、自分がやっていることに名前がついていると知らないまま働いている可能性があります。
問い②:「プロダクトを作る役割」と「プロダクトを届ける役割」の境界を、社内の誰もが同じ言葉で説明できるか。 説明がバラバラであれば、PMMという言葉に何を期待するかも、部門ごとに異なっているはずです。
問い③:PMMという役割に、今どんな型や教育を提供しているか。それとも、個人の経験に委ねたままか。 型がなければ、採用してもその人の力量に成果が左右され続けます。優秀な一人に依存した状態は、その人が抜けた瞬間に振り出しに戻ります。逆に言えば、簡単な型でも文書化して共有できていれば、二人目・三人目のPMMがゼロから学び直す必要はなくなります。
この3つに淀みなく答えられないとしたら、それは自社が特別に遅れているということではありません。日本PMM市場レポート2026が示す通り、これは多くの企業に共通する、いまの日本のPMM市場そのものの姿です。
一つだけ補足しておきます。この3つの問いは、順番に埋めていくものではありません。多くの組織は「まず人を採用してから、役割を決めよう」という順序で動きがちですが、それは往々にして遠回りになります。先に境界と型の輪郭だけでも描いておいたほうが、採用した人材が力を発揮できる土壌が先に整います。順番を間違えると、せっかく採用した人材が「結局何をすればいいのか分からない」という、この記事の冒頭に書いた状態に逆戻りしてしまいます。
おわりに:「機能がある」ことと「機能が定義されている」ことは違う
PMMという職能は、日本の多くの組織にすでに存在しています。92%という数字が、それを裏付けています。問題は、その機能が定義され、評価され、育成される仕組みを持っているかどうかです。
機能はあるのに定義がない状態は、属人化という形で組織にコストを払わせ続けます。優秀な誰かが偶然その役割を担っている間はうまく回りますが、その人が異動や退職でいなくなった瞬間、機能そのものが消えます。定義がなければ、後任も育ちません。採用市場でも同じ問題が起きます。求人票に「PMM募集」と書いても、社内で定義が固まっていなければ、面接での説明は担当者ごとにブレます。結果として、本来この会社に合っていたはずの候補者を、説明の不一致だけで取り逃がすことになります。
PMMを「置くかどうか」を決める前に、まず自社にとってPMMが解くべき問いは何かを、言葉にすることから始めてください。それができれば、配置も、採用も、育成も、驚くほど筋道が見えてきます。
この記事で紹介した数字はすべて、日本PMM市場レポート2026という一つの調査から得られたものです。166社という回答者数は、業界を代表する規模の統計としては大きくありませんが、これまで感覚や伝聞でしか語られてこなかったPMMという職能の実像を、初めて定量的に可視化したという点に価値があります。自社の状況をこの数字と照らし合わせることは、PMMという取り組みを、思いつきではなく、根拠のある投資判断に変える第一歩になります。調査の全結果は「日本PMM市場レポート2026」で無料公開しており、そのままご覧いただくこともPDFでダウンロードいただくことも可能です。
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よくある質問(FAQ)
Q. PMMとはどのような仕事をする職種ですか? プロダクトが持つ価値を、市場に伝わる形へ翻訳し、選ばれる状態をつくる職種です。具体的にはインサイト、ポジショニング、メッセージング、セールスイネーブルメントの4領域を担います。プロダクトを作る役割ではなく、作られたものを市場に届ける役割です。
Q. PMMとPdM(プロダクトマネージャー)は何が違うのですか? PdMは「何を、なぜ作るか」を決める役割、PMMは「作られたものを、どう市場に届け、選ばれる状態を作るか」を設計する役割です。両者は上下関係ではなく、補完関係にあります。
Q. PMMは日本企業にどれくらい普及していますか? 日本PMM市場レポート2026によれば、何らかの形でPMM機能が存在する企業は92%にのぼります(n=166)。ただし専任の肩書を持つのは28%にとどまり、多くは機能があっても名前が定まっていない状態です。
Q. PMMになるために必要な資格やスキルはありますか? 必須の資格はありません。求められるのは、顧客理解・ポジショニング設計・メッセージング・セールスイネーブルメントという4領域にまたがる力です。事業企画やマーケティングなど、複数領域を経験した人材が流れ着きやすい役割です。
Q. PMMは今後、日本で必要とされ続けますか? 日本PMM市場レポート2026では、今後3年でPMMの重要性が上がると見込む企業が83%にのぼりました。今後12〜24ヶ月でPMM体制を新設または増員する意向を持つ企業も61%と、需要は構造的に拡大しています。
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