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  • フレームワーク

2026/5/25 02:42

新規事業が"売れない"のは営業のせいではない——事業開発担当者が見落とす、組織連携の三つの落とし穴

"良いプロダクトは作った。営業組織もある。それなのに、思うように売上が立たない。"——新規事業の現場で、この風景は珍しくない。
多くの場合、原因は営業力ではない。プロダクトでもない。組織の動かし方の中にある。

新規事業の責任者や事業開発担当者と話していると、必ず出てくる悩みがある。「営業に動いてもらえない」「PdMと話が噛み合わない」「経営が事業の本質を理解してくれない」一見すると、どれも"他人の問題"に見える。営業がもっと売れば。PdMがもっと顧客を見てくれれば。経営がもっと長期視点で考えてくれれば。

しかし、現場を解きほぐしていくと、たいていの場合、問題の起点は事業開発側にある。正確に言えば、事業開発担当者が「自分の役割」だと思っていない領域に、本当の課題が眠っている。

本記事では、新規事業が"売れない"状態に陥ったとき、事業開発担当者が見落としがちな組織連携の落とし穴を三つ取り上げる。PMM(プロダクトマーケティングマネージャー)が日常的に向き合っている問題と、根は同じだ。

1. なぜ新規事業の"組織連携"はこじれるのか

「営業に渡したのに動かない」現象の正体

新規事業の責任者からよく聞く言葉に、こういうものがある。「営業に資料も渡したし、説明会もやった。なのに数字が出ない」。

この感覚は理解できる。やるべきことはやった、という認識だからだ。しかし、現場の営業に聞いてみると、まったく別の風景が見える。「あの新規事業、よくわからないんだよね」——これが、現場の本音だ。

資料はある。説明会も受けた。それでも「よくわからない」と言われるのはなぜか。理由は単純で、「なぜこの顧客が、この課題で、自社を選ぶのか」という論理構造が、営業の側で再構成できる状態になっていないからだ。

事業開発側は、その事業を毎日考えている。市場のことも、顧客のことも、競合のことも、頭の中で立体的に理解している。だから「資料を見れば伝わるはずだ」と思ってしまう。しかし営業は、その新規事業を理解する時間を持っていない。既存事業の数字を追いながら、片手間で新規を扱っている。彼らに必要なのは情報量ではない。「自分の言葉で語れる状態」になるための、思考の骨格だ。

"組織で売る"の難しさは、規模ではなく構造から来る

新規事業の営業がうまくいかないとき、よくこう言われる。「組織が小さいから仕方ない」「リソースが足りない」。確かにそれもある。だが、もっと根本的な問題は別のところにある。

新規事業は、既存事業と顧客の見え方が違う。既存事業の営業は、すでに型化された勝ちパターンを持っている。誰に、何を、どう売るか。経験で身体に染み込んでいる。一方、新規事業ではその型がまだ存在しない。営業は、毎回ゼロから考えなければならない。

この差を、事業開発側が認識しないまま「同じように売ってほしい」と期待すると、必ずこじれる。営業にとっては、慣れた型のない仕事を、慣れた数字目標で評価される——という状況が生まれる。動けないのは当然だ。

2. 落とし穴① :勝ち筋を「自分の頭の中」に置いたまま渡している

資料の量と、伝わる量は比例しない

事業開発担当者は、まじめな人ほど資料を作り込む。プロダクトの背景、市場の規模、競合分析、ターゲット顧客像、ROIの計算——情報を網羅的に詰め込んだ立派なスライドができあがる。これを営業に渡せば、彼らは理解してくれるはずだ、と。

しかし、起こることはたいていこうだ。営業はスライドをざっと眺め、「ターゲットはここね」「価格はこれね」「ベネフィットはこれね」——と、点で情報を拾う。そして商談に出る。顧客から「で、なんでこれがうちに必要なんですか?」と聞かれたとき、点で拾った情報をつなぎ直すことができない。"うちには関係なさそうですね"で終わる。

事業開発側からは、この風景がよく見えない。資料は渡したし、説明もした。だから「営業がさぼっている」「営業のスキルが足りない」と感じる。しかし違う。営業に届いていたのは、情報の断片だけで、勝ち筋の論理構造ではなかったのだ。

営業が知りたいのは「情報」ではなく「なぜ」

営業が顧客の前で勝つために必要なのは、機能の一覧や価格表ではない。「なぜこの顧客が、この課題を、今、自社で解こうとするのか」という、たった一つの論理だ。

この論理さえ自分の言葉で語れれば、想定外の質問にも対応できる。逆にこの論理が共有されていないと、想定問答集をどれだけ作っても、現場で崩れる。質問は無限にあるからだ。

事業開発担当者が組織連携で最初にやるべきは、資料を増やすことではない。自分の頭の中にある勝ち筋を、営業が再構成できる骨格に変換することだ。これができていないまま、どれだけ資料を渡しても、現場は動かない。

3. 落とし穴②:PdMと「同じ顧客」を見ていない

機能ロードマップの議論が、いつも噛み合わない理由

新規事業の現場で、もう一つ典型的なすれ違いがある。PdMとの間で、ロードマップ議論が噛み合わないという現象だ。

事業開発側は「これを作れば売れる」と言う。PdMは「技術的にはこっちが先だ」と言う。両者とも正しい。しかし議論はかみ合わない。なぜか。

本当の理由は、ロードマップの優先順位を議論する以前に、「私たちは誰のために、何を解いているのか」という前提が揃っていないからだ。事業開発側が思っている顧客像と、PdMが思っている顧客像が、微妙に——あるいは大きく——ズレている。同じ言葉で「顧客」と呼んでいるのに、見ているものが違う。

この前提のズレがあるまま機能議論を始めても、永遠に着地しない。「市場に届く順番」と「作れる順番」は、もともと別の論理で動くからだ。同じ顧客像を共有していて初めて、両者をすり合わせる議論ができる。

"作れる差別化"と"勝てる差別化"の違い

もう一つ、PdMと事業開発の間で起こりがちな構造的なすれ違いがある。「差別化」という言葉の意味が違うのだ。

PdMが「差別化」と言うとき、それはしばしば「技術的に競合と違うこと」を指す。独自のアルゴリズム、独自のアーキテクチャ、独自のUI。これらは確かに差別化だが、市場で勝てるとは限らない。顧客は技術の違いで買うわけではないからだ。

事業開発側が「差別化」と言うときの意味は違う。「市場の中で、なぜこの選択肢が選ばれるのか」という判断軸のことだ。技術的に違うかどうかは、その手段の一つでしかない。

この言葉の使い方の違いに気づかないまま議論を進めると、「PdMは技術にこだわりすぎる」「事業開発は市場ばかり見ている」というお互いへの不満だけが残る。本当の問題は差別化の定義そのものを揃えていないことなのに、それが見えない。

4. 落とし穴③:「組織の空白地帯」を誰も引き受けていない

「誰の仕事でもない」が、事業を止める

新規事業を進めていると、必ず「誰の仕事でもない問い」が出てくる。たとえばこんなものだ。

「このセグメントから入るべきか、別から入るべきか」。「価格をいくらに設定すべきか」。「既存事業の顧客に売っていいのか、新規だけにすべきか」。「営業はインサイドセールス起点でやるか、フィールド営業から行くか」。「ブランドは既存の傘下でいいのか、独立させるか」——どれも、答えが決まらないと先に進めない問いだ。

そして、これらの問いに共通しているのは、どの部門のKPIにも直結しないことだ。営業のKPIは"今期の数字"。PdMのKPIは"開発のリリース"。経営のKPIは"事業ポートフォリオ全体"。誰の責任範囲にも、これらの問いはきれいに収まらない。

結果、何が起こるか。誰も引き受けないまま、問いが宙に浮く。会議では話題になるが、決まらない。担当者が決まらない。検証も進まない。事業は止まる。

事業開発担当者の本当の仕事は、ここから始まる

厳しいことを書く。多くの事業開発担当者は、この「空白地帯」を、誰かが拾ってくれるものだと思っている。「これは営業が決めることだろう」「これはPdMが判断すべきだ」「これは経営マターだ」——と、責任を他に投げる。

しかし、これらの問いは構造的に、どの部門にも完全には属さない。だから誰も拾わない。拾わないまま放置されると、事業が前に進まない。

本当に動く事業開発担当者は、ここで「これは私の領域だ」と自ら手を挙げる。問いを引き受け、構造化し、意思決定できる形に変換して、適切な相手に渡す。"営業に決めてもらう"のではなく、"営業が決められる材料を整える"。"経営に判断してもらう"のではなく、"経営が判断するための論点を提示する"。

この役割を引き受けない限り、新規事業は前に進まない。組織には、誰かが引き受けるまで宙に浮き続ける問いがある——これを認識することが、組織連携の出発点だ。

5. 落とし穴を抜けるための、最初の問い

ここまで、新規事業が"売れない"状態に陥ったとき、事業開発担当者が見落としがちな三つの落とし穴を書いてきた。最後に、自分が今どこにいるかを点検するための、三つの素朴な問いを残しておく。

問い①:この事業の勝ち筋を、一文で言えるか

「誰が、何の理由で、自社を選ぶのか」——これを装飾なしの一文で言えるか。言えないなら、営業に勝ち筋を渡せていない。資料を作る前に、この一文を磨くほうが先だ。

問い②:PdMと「同じ顧客像」を見ているか

PdMと話していて噛み合わない感覚があるなら、ロードマップの優先度議論をする前に、顧客像のすり合わせに時間を使ったほうがいい。「私たちが解いているのは、誰のどんな課題か」を、お互いの言葉で確認する。前提が揃っていないまま手段の議論をしても、結論は出ない。

問い③:誰の仕事でもない問いを、引き受けているか

今、自分の事業の中で「決まっていない問い」を3つ挙げてみる。それぞれに、誰が決めるかが明確になっているか。明確になっていないなら、それは空白地帯だ。事業開発担当者が引き受けるか、誰に渡すかをはっきりさせないと、その問いは永遠に宙に浮いたままになる。


新規事業の壁は、組織連携の壁だ

新規事業が思うように立ち上がらないとき、原因を「営業の力不足」や「プロダクトの未成熟」に求めるのは簡単だ。しかし、本当の課題は、たいていの場合事業開発担当者自身の役割の定義の中にある。

勝ち筋を頭の中だけに置いていないか。PdMと同じ顧客を見ているか。誰の仕事でもない問いを、自ら引き受けているか。——この三つに正面から向き合うことが、新規事業を組織で動かす最初の一歩になる。

新規事業の壁は、市場の壁ではない。プロダクトの壁でもない。組織連携の壁だ。そしてこの壁を越える役割を、事業開発担当者が引き受けない限り、誰も代わりに越えてはくれない。


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